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2021年度シラバストップ > 高Ⅱ年5組 > 理科 > 物理基礎

教科
科目
学年・組
授業時間
担当者
理科
物理基礎
高Ⅱ年5組
週4時間
必修選択
秋田

到達目標


 この世界を支配する最も基本的な、究極の法則はなにか?一見違うものに見えるいくつかの現象は、実は同じものではないか?この問に対して非常に多くの研究者たちが日夜議論を交わしています。この授業では、人類が積み重ねてきた過去の遺産を通じて、新しいアイデアや概念がどのように生み出されてきたかあるいはどのように統合されてきたのかを学びます。

 より具体的には、到達目標として以下の各項目を段階的に据えます。

1.各物理量の定義を理解し、そこから導出される公式の意味と意義を味わうこと
2.さまざまな公式が導出される過程とその必然性を理解し、自身で議論を再現できること
3.未知の(初見の)現象に対して、物理学の原理主義的なアプローチから解析をできること

さらに、究極的には、これらの目標達成の過程において、

4.自然現象に宿る法則の美しさを感じ取れるようになること

も目指します。

授業の進め方・学習方法


 授業前の予習、授業中の取り組み、授業後の復習について、担当者が想定している学習方法は次の通りです。
 予習では、次回の授業で扱われる範囲の例題や章末問題を、自力で解く努力をしてきてください。教科書の該当範囲を読まずに(つまり予備知識無しで)問題を解こうとしてみることを勧めます。これにより授業時の概念理解が深まりますし、最低限解けるようになるべき問題にあたりを付けられるというおまけがつきます。
 授業は基本的に板書で進めます。必要に応じてプリントや映像資料の配布を行います。演示実験も適宜取り入れます。配布されたプリントや教科書・ノートという基本的なものを準備した上で授業に出席してください。
 復習として、あなたが授業を受けたその日のうちに自由な想起練習を行ってください。また、進度に応じて週末に演習課題を課しますので取り組んでください。


【物理の学習における4つのコツ】
 たくさん疑問を作り、それをたくさん共有してください。物理学は、いったんそのやり口を理解してしまうまでは非常に難しいです。ですから、わからないことがあるのが当然です。ある現象に対してどうアプローチするか?なぜそのアプローチをしたくなるのか?他の方法はないのか?と、内容について常に問をつくることを意識しましょう。このような問いかけを通じて自然現象の原理を追及し、その本質を見極める探究心を持てるかどうかが、物理の実力がつくかどうかのカギです。
 また、授業で議論するさまざまな内容を自分自身で再現する練習を積みましょう。具体的には、やりたいことと必要な概念の定義から出発して、論理の必然性を追いながら定理(公式)の導出を行うのです。こうして一つの概念をより深く理解したら、次は各概念間の関係を考えて鳥瞰図をつくってください。この後、問題演習に進みましょう。問題演習は理解を深めるために行うものですから、深めるべきもの自体をまず創ろうとするのが良いでしょう。
 自分の脳内がアクティブになっているかどうかに注意を払ってください。「理解しよう」と思うと教科書やテキストを何度も再読する人がいますが、実はその行動の効果はさほど高くないです。せめて、単に繰り返し読むのではなく、「問」を作ってから読み始めましょう。知識の定着という意味では想起の回数と適切なタイミングが重要だと心得てください。
 最後に、「知識」を覚えることを遠ざけすぎないように気をつけましょう。もちろんむやみな暗記は避けるべきですが、ここでいう知識は単に丸暗記した字面のことではありません。複数の事柄から編み出された成果物としての知識を指します。はじめは不細工でもいいですから、学んだことを丁寧に自分なりの言葉で表現したり要約してみたりしましょう。そうして、自分の中に新たな知識・体系が広がっていくことを楽しんでください。

授業スケジュール


学期
学習内容
1学期
 これから2年間をかけて、皆さんは身の回りの現象の背景を物理学的に説明できるようになっていき、最終的には相対論や量子論の世界を垣間見ることになります。そのはじめの1年として学ぶ物理基礎は主に3つの分野で構成されます。まずはじめに、現代物理学のあらゆる分野の基本となる「力学」。続いて、大多数の粒子に対して用いられる「熱力学」、そして現代物理学を理解するために欠かせない「波動」へと進みます。


注意:高2の1学期で学ぶ「力学」こそが物理学において最重要です。「最も」重要です。この学期だけは、内容を習得するために必要な学習時間を、各自にとって十分な量だけ物理に充ててください。
~1学期~【運動学、および力学の基本体系の理解】

物理学の対象と、運動の表し方
- 位置・速度・加速度
- ベクトル、微分、定積分
- 単位と次元
- 投射
- 円運動
- 単振動
- 相対運動

このセクションでは、数式を用いて運動を記述するとはどういうことかを学びます。まず、もっとも基本的な記述方法として位置・速度・加速度をベクトル量として導入します。概念をより本質的かつなるべく正確に理解するために、多少の数学を使用します。ただし、使用する数学は高校程度のものに限ります。その後、具体例として投射(自由落下ほか)、円運動、単振動、相対運動の数学的な記述方法を学びます。


運動の3法則
- 慣性の法則
- 運動の法則(運動方程式)
- 作用反作用の法則
- 慣性力(座標系自身の運動による効果)
- 各種の力を紹介(万有引力、クーロン力、地球表面上の重力、垂直抗力、摩擦、張力、弾性力、抵抗力、浮力)
具体的なアプリケーションとして、
- 投射
- 束縛条件
- 摩擦下の運動
- 単振動
- 単振り子
- 円運動(万有引力など) ※エネルギーの学習を進めた後により詳しく学びます。

このセクションでは、運動を解析するための“枠組み”をつくっていきます。慣性の法則で特殊な座標系を導入し、運動方程式によって力と運動を紐付け、作用反作用によってその力が相互作用であることが明示されます。


【ここまでの学習におけるポイント】
 まずは、数学による記述に慣れて計算に習熟することが重要です。そのうえで、物理学の理解として重要なところは次の通りです。すなわち、運動の3法則(慣性の法則、運動の法則、作用反作用の法則)が互いにどのような関係にあるか、なぜこのように要請されているのか、を理解することが重要です。この理解によって、あなたは現象に対する体系的なアプローチ方法を得られます。
 また、ひとつひとつの概念や定義をあなた自身の言葉で説明できるようにしましょう。その際、どれが定義で、どれが定義から導かれるべき公式であるかも意識すると学習の助けになります。公式の導出過程には、なぜその方針を取るのか?という必然性が必ずありますから、その心を感じとって言語化してください。


1学期中間試験
 数学による運動の記述ができるか、力学によって運動を解析する方法を習得しているかどうかの習熟度を問います。単に公式を知っていて使えるかどうかのみならず、どの程度まで概念を理解して、どの程度詳しく丁寧に自身で議論できるようになっているかを重要視して学習に取り組んでください。
 また、授業内で解説した内容に関連した事項や問題集の問題もすべて出題範囲です。これは以下の各試験でも同様です(以下、記載を省略します)。

1学期中間試験
1学期
2021年度はこのタイミングで教育実習を実施する予定です。

運動量の導入
- 運動量変化と力積
- 運動量保存則と作用反作用
エネルギーの導入
- 運動エネルギー変化と仕事
- 保存力と位置エネルギー
- 力学的エネルギー保存則
- ※角運動量変化と力のモーメントの関係

これらを利用した解析の例として、
- 地球表面上の重力下での運動
- 摩擦下での運動
- 弾性力下での運動

このセクションでは、「運動に付随する保存量」という観点から運動を解析します。これは、以前の運動方程式による解析を抽象化したものです。運動方程式を微分方程式として捉え、それを積分するという観点から運動量やエネルギーといった概念を導入します。


【ポイント】
 エネルギーは非常に抽象的な概念です。「エネルギーとは何か」については現代物理学の中でも未だに正体がわかっていません。ただ、孤立した系における保存量だということだけがわかっています。このような抽象的な概念の習得には、議論の流れと必然性を自身で再現できるように訓練することが近道です。ただ単に結果を使えるようにするのではなく、あなた自身がしている立式や操作が何を目的としているのかを理解した上で使えるようにしましょう。



1学期期末試験
 1学期中間試験の内容を含め、1学期の授業を通じて学んだすべての内容とそれに関連する事項を出題範囲とします。ある一つの現象を解析する方法として、運動方程式だけではなく保存量という抽象的な概念を使えるようになっているかを確認します。特に、それぞれの保存則がどのような条件で成立するものなのかを理解し、立式に際してその条件を確認できているかどうかを重要視します。
1学期末試験


学期
学習内容
2学期
※1学期予定範囲の変化に対応するためにマージンを取れるように配置しました。

~2学期~ 多体系の取り扱い
2体問題
- 運動量保存下における運動(衝突、バネで連結された2物体の運動など)
- 重心座標系による記述
- 角運動量保存則と天体の運動:万有引力の有効ポテンシャル
剛体の力学
- 自由度
- 静止条件

【ポイント】
 2体問題は1学期の内容に基づいて議論される各論ではありますが、物理学の定石を知るうえでとても有益です。特に、位置エネルギーの概形と全エネルギーの値から運動の概要を知る方法は、現代物理学の根幹を担う重要な手法です。その美しさをぜひ感じてください。
 高校範囲の剛体の力学では、実際に方程式を立てて解くことは容易です(実際、この単元は教科書の第2章の内容)。しかし、より重要なことは、剛体近似のもとで方程式の形がどのように制限されて簡略化されるか、あるいは系の方程式を解くことができる理由はなにか、そもそもなぜそのような方程式を作りたくなるのか、といった本質的に重要な点を理解することでしょう。


2学期中間試験
 2学期の初めから中間試験前最後の授業の間に取り扱った内容と、それに関連する事項を出題範囲とします。本試験では、エネルギーや運動量、あるいは角運動量といった視点から運動を理解できているかどうかを確認します。また、剛体の運動がなぜ簡単に解析できるのか、実際にどのような現象が例として挙げられていたか、などついて体系的な理解を問います。また、1学期で学んだことが基礎となっているので、1学期で学んだ内容とも少なからず重複する部分もあります。
2学期中間試験
2学期
これまで着目してきた質点という“ミクロな”対象から、非常に多数の粒子からなる“マクロな”系の状態遷移を記述する「熱力学」に議論を移していきます。

まず、気体の分子運動のマクロな帰結として得られる圧力について、力学の観点からその性質を学びましょう。続いて、「熱」という量を力学的な仕事を通じて定義します。これらの基本概念に基づき、応用例として熱機関を議論します。

熱力学の対象
- 熱の取り扱い
- 平衡状態
- 状態変数(P,V,T)
- 理想気体
熱力学の基本法則
- エネルギー保存則
- 仕事の定式化
- 内部エネルギーの定式化と気体の分子運動論
- 状態変化
- 定圧変化
- 定積変化
- 等温変化
- 断熱変化

熱機関による熱効率


【ポイント】
 前半は、定義と原理を大切にしましょう。特に、熱という概念の定義を正確に把握するのがとても重要です。また、気体の分子運動に着目することで、気体の温度や圧力といったマクロな物理量がミクロな視点だとどのような意味を持つのかが明らかになります。ただし、熱力学は本来マクロ系の理論であり、ミクロな物理に基づいて構成されているわけではないことに留意しましょう。
 後半は、熱力学第一法則を中心に置きつつ、熱平衡状態の移り変わりを議論していきます。ここでは代表的な4つの過程を学びますが、それぞれの過程の定義はなにか、その定義のもとで熱力学第一法則がどのように書き下されるか、などに留意しましょう。熱力学は、全体像を構築できるかどうかが理解のためのコツです。


2学期期末試験
 2学期中間試験の内容を含む、2学期の授業を通じて学んだすべての内容とそれに関連する事項を出題範囲とします。中間試験範囲については、対応部分の記述を参照してください。
 熱力学については、ポイントとして挙げた内容がとても重要です。マクロな系というある意味でブラックボックス的なものを扱うためには、理論(考え方の枠組み)を把握することが再優先事項です。この点についての習熟度を問います。その上で、具体的な熱機関の取扱いについても親しみを覚えられるようにしておきましょう。
2学期末試験


学期
学習内容
3学期
~3学期~【現代物理の発展の基礎となる概念を構築】
現代物理学において最も重要な分野でもある「波動」について理解していきます。まずはじめに波の定義を述べ、媒質中のある一点の運動が周囲へ伝わっていくイメージを持ちます。

波の性質
- 波と媒質の運動
- 波の伝わり方
- 重ね合わせの原理
応用例
- ドップラー効果
- 定常波、うなり
- 発音体の振動と共振・共鳴

【ポイント】
 波の一般式は、おそらくみなさんが初めてまともに扱う2変数関数です。単に一般式を扱うことだけではなく、その導出過程を理解して自身で導き出せるようになることこそが重要です。これにより、波動の伝わり方、動き方を理解することができます。2変数関数であるが故に慣れるまではイメージしにくい内容ですが、数式が持つ意味を常に考えてください。
 ドップラー効果は、幾何学的な導出過程を自身で再現できるようにすることが求められます。特に、どのような座標系のもとで議論をしているのか、選んだ慣性系に依らない物理量は何かなどに着目しましょう。
 音(空気の疎密波)を中心に据え、複数の波動の相互作用の結果として生じる定常波やうなりといった現象を学びます。


3学期 学年末試験
学年末試験では、1、2、3学期で学んだすべての内容が出題範囲となります。1、2学期からの出題については、対応部分の記述を参考にしてください。
 波動分野では、波の基本式の導出を丁寧に言語化できているかどうかや、波の一般式の導出が最初に重要となるポイントです。その上で、現実的な例として、さまざまな状況における諸公式を必然性に基づいて導出できるようになりましょう。

また、学年末試験では、1年間で学んだ内容がどれだけ体系化されているかも重要視します。個々のトピックスだけを個別に理解するのではなく、それぞれがどのような関係にあるのかまで意識を向けておくことを勧めます。
学年末試験

成績評価方法


種別
割合(%)
評価基準など
定期試験
60
平常点は以下の項目により算出します。
- 課題の提出
- 小テスト
- 授業中の積極的な発言
レポート
0-40
小テストなど
0-40
授業での取り組み状況
0-40

教科書・教材/参考書/参考サイト


教科書・教材
書名
出版社
教科書番号/code
備考
物理基礎
数研出版
104数研 物基/318
教科書
総合物理1・2
数研出版
教科書
体系物理
教学社
問題集

参考書
書名
著者
出版社
コード
備考
理論物理学への道標
河合塾
参考書兼問題集。ハイレベルかつ興味深い記述や問題がある。最難関志望者向け。
物理基礎問題精講
旺文社
体系物理以外の同レベル問題集。週末課題として一部配布します。
物理重要問題集
数研
入試標準~やや難程度の問題集。解答例が詳しい。

担当者からのアドバイス


 物理は積み重ねが重要です。新たな分野を楽しむため、楽しむことにより集中できる状態にするために、一度学んだ内容を脳に定着させましょう。定着した内容をもとにして新たに理解を進め、単元間のつながりや論理構造としての美しさを感じていきます。ハイレベル、ハイスピードな授業展開についてこれるように復習を確実に行いましょう。
 知的好奇心を最大限に刺激して考え続けてください。物理学は、あなたの飽くなき知的好奇心にどこまでも耐えうるであろう学問です。学習時にはぜひ大量の疑問をつくってください。授業では、あらゆる疑問を歓迎します。自習の際には、自分はこの概念を説明できるか?10歳の子どもに教えるならどう話すか?その概念を使って表されているこの式の意味はなにか?この式が成立する根拠は?その背景にはどんな原理があるのか?他の場合に応用は可能なのか?などを考えてみるとよいでしょう。
 物理学の美しさに触れる旅を、一緒に楽しみ尽くしましょう。